P1040096-00.jpg著者名 三輪節生/著
出版社名 石風社 (ISBN:4-88344-070-2)
発行年月 2001年05月
サイズ 284P 19cm
価格 1,890円(税込)

 この本は、長崎県諫早市近辺の諫早湾干拓事業をめぐる問題点を書いた本です。同時に諫早湾の持つ自然の豊かさも書かれています。地元に住んでいない私たちは、テレビニュースなどで干拓事業を進めるために作られた潮受け堤防の水門を閉じる「ギロチン」の映像で記憶に残っている人は多いと思います。

 問題が多いこの公共事業をなぜごり押しするのか?、疑問を感じてこの本を手にしてみました。必要性の少ない公共事業の問題点がぎっしり詰まった典型として「諫早湾干拓事業」が描かれています。更に、諫早湾周辺の干潟の持つ浄化能力の高さが何度も書かれています。干潟の浄化能力というのは、人々はあまり知らないのではないでしょうか。私も今回この本を読んではじめて知りました。干潟をつぶして下水事業に莫大な予算をつぎ込まねばならない地方自治体の転倒したやり方に怒りも覚えるくらい、この事業はクレージーさがあふれています。

 干潟の浄化能力といのは、簡単に言えば干潟に住む無数の貝類やカニ、ゴカイを含む底生生物が有機物を餌にする。そして、泥に穴を掘りその穴に酸素が供給され腐敗を防いでくれる。無数の貝類を水鳥たちが餌にする。という循環で水質が浄化されるというメカニズムです。

 この事業につぎ込むお金は、約2500億円。この予算をつぎ込むなら、その予算の数分の一で川の堤防補強などや排水ポンプの設置をして洪水対策をした方が合理的だ、というのが著者の主張です。農地だって、いまでは全国にあまっている。無理して干拓事業をする合理的な理由は無しだ。推進派は、長崎県と諫早湾周辺の市町村自治体と農民。大きな被害を受けているのは、漁業者たち。「よそ者が口を挟むな」という偏狭な根性も気になるところです。

 希少種の渡り鳥が、干潟をつぶすことで激減した事実も出てきます。心が痛みます。諫早湾というのは、たくさんの渡り鳥の中継地でもありました。

 この本を読んでいて率直に感じた感想は、繰り返しが多い。同じ記述が何度も出てきて閉口してしまいました。もっと圧縮できたのではないか。


本の内容
「防災」と「優良農地造成」の旗印を掲げた諫早湾干拓事業は、2000年の記録的なノリ不作問題をきっかけに、国内の世論を喚起した。膨張する事業費、疑問多き防災機能、干潟本来の浄化能力を無視した水質保全計画、必然性のない農地造成・・・本書は「長崎大干拓」「南総計画」といった干拓構想の変転の経過から、漁業被害の実態、住民運動の軌跡、さらには、「生命の海」を育んだ生き物達の生態まで、問題の全体像を総覧しつつ、隘路に陥った干拓事業を多角的に検証する。

目  次
序章 干潟はどこへ行く
第1章 諫早湾干拓事業 我々は何を失ったのか
第2章 生命の海
第3章 海とともに 諫早市周辺のまち
第4章 諫早湾の生き物たち
第5章 事業のための事業
第6章 闘い 干潟は取り戻せるか
終章 そして干潟は・・・
資料
参考文献



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