32057962-00.jpg著者/訳者名 本山美彦/著
出版社名 岩波書店 (ISBN:978-4-00-431123-2)
発行年月 2008年04月
サイズ 220,22P 18
価格  819円(税込)
 この本を読んでいて一番感じるのは、経済のグローバル化は、あるいは、金融の自由化は弊害が大きくて世界中の人々を苦しめている、ということだ。逆に言えば、一部の大金持ちが儲かる仕組みを作り上げられた、という被害者意識しか残らない。それだけ弊害の側面を掘り下げた本だといえるのではないか。もちろん、探せばメリットもあるのかもしれないが弊害が大きすぎて、メリットが思い浮かばないということだ。

 サブプライム問題が去年から持ち上がり株価は低迷しあまったマネーが石油の先物取引へと流れて原油価格の高騰を招いている。ガソリンは、180円/リットルを超えている。一方、若者を中心とした定職に就けない人達の割合も増え続けている。雇用の不安は、将来への不安を誘い自暴自棄になり秋葉原で7人もの殺人へとつながった(2008/06/08)。

 どれもこれも「経済のグローバル化」がもたらしたものだ。サブプライム問題は、回り回って日本の金融機関でも巨額の損失を出している。金融機関を救済するために各国の中央銀行は市場にお金を大量に供給した。その結果、世界的なインフレが起こりいろいろな物価が上がっている。このような「経済のグローバル化」によって世界中の人達が影響を被っているが、このようなことを引き起こしている構造的な権力として、筆者は、ワシントンを中心とした「金融権力」を取り上げ解明している。いまや、庶民でもアメリカの「金融権力」のことを念頭に置いて物事を考えなければ、世の中がわからない時代に突入している。とにかく「金融権力」というのは、自分たちで勝手な(自分たちで都合のよい)ルールを作って世界中に押しつけてくる。その一つが、金融の自由化である。格付け会社も、アメリカの一私企業に過ぎないのに大きな権威と権力を握って会社にリストラを迫ったりする(アメリカの自動車メーカーのGMやフォードに)。その格付け会社も、サブプライム問題で化けの皮がはがされた。リスクの大きい証券をリスクが少ない格付けにしていたのだ。この辺のことをこの本で読んで怒りを覚えない人はいないだろう。それほどデタラメにシステムを築き上げているのだ、金融権力というのは。

 経済のグローバル化がもたらした弊害がいろいろ論じられ、それに対する打開策も模索されつつある。この本では、打開策の一つとしてピエール・プルードン(1809–1865)の思想が紹介されている。プルードンといえば、マルクスを思い出す人も多いだろう。マルクスが『哲学の貧困』で徹底的に批判したあのプルードンである。プルードンは、「人民銀行」という構想を打ち出す。これは、いまでいえば地域通貨の考えのようだ。マルクスのように政治革命を目指すのではなく漸次的な改革を志向していたようだ。人々の相互の信頼を基礎に置いた「相互主義」を唱えた。マルクスがブルジョアジーを信頼していなかったのとは正反対の思想といえるのじゃないか。20世紀の「戦争と革命の世紀」を経てきた今日、漸次的な改革を目指すのも無理もないのかもしれない。
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