31910060.JPG 「慰安婦」問題というのは、いろいろ論文を読んだり本も何冊か読んだことがありますが、この問題を償うために1995年に設けられた「アジア女性基金」(正式名称は「女性のためのアジア平和国民基金」)については、『戦争が遺したもの 鶴見俊輔に戦後世代が聞く』(小熊英二/著)の本で、上野千鶴子が鶴見俊輔に論争を挑んでいた文章を読んだだけで、実際にも「アジア女性基金」について全くと言っていいほど知らなかったし、本で読んだこともありませんでした。その「アジア女性基金」に携わって著者の反省と総括、そして「メディア・NGO・政府の功罪」を書いた、非常に興味深い本でした。かなり突っ込んで書いてあり説得力の強い文章だ、との印象を持ちました。この本で批判されている人達や団体・メディアの反論も読んでみたくなりました(出版されているかどうかわかりませんが)。政治やイデオロギーと戦いながら、実際の運動体を担っていく上での困難さ等が詳しく書かれていて、今後十分な検討が各方面からなされねばならないでしょう。「アジア女性基金」の四つの柱は、

  1. 元「慰安婦」への国民的な償いのための基金の設置
  2. 彼女たちの医療福祉支援への政府からの資金拠出
  3. 政府による反省とお詫びの表明
  4. 本問題を歴史の教訓とするための歴史資料の整備

 ここで検討されている論考は、多義にわたって私のような素人が論じるには荷は重すぎますが、随所にきらっと光る論考があります。たとえば「法的責任は道義的責任に優るのか」。NGO等が「法的責任」を求めるが、それが本当に被害者にとっていいのか、最適な選択なのか、と著者は論を進めます。すごい説得力のある論考だと感じました。

本の内容

 一九九〇年代以降「慰安婦」問題は、「歴史認識」の最大の争点となっている。政府は軍の関与を認め謝罪。市民と政府により被害者への償いを行う「アジア女性基金」がつくられた。だが、国家関与を否定する右派、国家賠償を要求する左派、メディアによる問題の政治化で償いは難航した。本書は、この問題に深く関わった当事者による「失敗」と「達成」の記録であり、その過程から考える新たな歴史構築の試みである。

目  次

第1章 「慰安婦」問題の衝撃
第2章 アジア女性基金とメディア、NGOの反応
第3章 被害者の視点、被害者の利益
第4章 アジア女性基金と日本政府の問題性
第5章 償いとは何か―「失敗」を糧として
終章 二一世紀の日本社会のあり方

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